村上隆「727 FATMAN LITTLE BOY」-----------

国立国際美術館が令和4年に購入した、国内最大級の村上隆の絵画作品、
今回が初お披露目です。

村上隆
この名前はこの30年以上、評価の変遷の嵐の渦中にあり続けています。
それでも彼なしにアートは語れない現代の生きる伝説です。
いつの時代の学生(美大生)の話題にも「MURAKAMI」はあり
憧憬だけでない負の感情も含めて多くの目が彼の動向に注がれます。

しかし、彼こそがパイオニア。
1995年に大リーグのドジャースで現地の人を驚かせた野茂英雄さん。
彼がいたから「日本人にも大リーグ市場に乗せられる野球選手がいる」と
知らしめることになりましたが、
村上隆は、まさに、
「世界の美術品マーケットが日本人を評価するきっかけとなった作家」です。

若き日の彼は、
世界のアートシーンに躍り出るには「文脈が必要だ」と気づきます。
億万長者の
ビッグコレクターたちは、自分のコレクションを人に語りたいものです。
彼らは何大抵ではない努力と知性で上り詰めた、トップオブトップの成功者です。
ですからこそ、アートの選択でも間違いはおかしたくない。
「へえ、すごいね。」
「知的だね」
「文化論にも詳しいんだね」
と言われたいものです。
その道筋、つまり腑に落ちるストーリーが「文脈」です。
村上が考えた世界規模のビッグコレクターの心に迫る「文脈」は何だったでしょうか。

西洋から見た日本のアートで有名なのは浮世絵ですよね。
その昔、日本から大量に輸出された浮世絵はパリの画家たちに
衝撃を与えました。

葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 山城あらし山 吐月橋」
輪郭線のはっきりした人物や風景。
西洋画のように立体的な描写でなくぺらっとした平面の世界なのに
かすみやぼかしの効果で遠近感を演出して
その縮尺も正確。
そんな浮世絵に触発されたゴッホやモネやセザンヌは、現在も驚くような高値で取引されている。

Vincent van Gogh,Flowering Plum Orchard (after Hiroshige),1887
村上は、
現代社会で高い評価を得ているゴッホらに影響を与えた「平面の描写力」こそが、
日本人である自分の立脚する場所だと見極め
それに「スーパーフラット」という名称を与え、文脈の題名にしたのでした。
(村上先生、大体合ってますよね?)

さてでは、この作品を見ていきましょう。

何かに似ていませんか?
「箔の画面に雲に乗る想像上の生き物」といえば
風神雷神図屏風です。

この絵での想像上の生き物は、耳に書いてあるようにDOBくんという
村上作品に繰り返し登場するキャラクターです。

ここで少し視点を変えた話を。
日本で育った私たちにとても馴染みがあるスーパーフラット、
つまりは平面アイテムといえば、、、、漫画です。
そう、浮世絵の時代と違って
現代の国民の認知するスーパーフラットはマンガなのです。
村上隆がわかってきませんか。
日本の現代人が最も見て愛して課金するもの=漫画
を、
恥ずべき文化ではない、時代の求めたアートとして陽を当てる
そこにも文脈の続きを充ててきたのです。

村上の売れる前夜から追っていた私も、
GUCCIグループの総帥ピノー氏が、本格的に彼のコレクションを
始めた時は、本当に驚きました。
そのピノー氏が持つ村上作品の一つ、スーパーフラットの作品を
機会があってヴェネツィアにあるピノー氏の美術館、グラッシ館で見ました。
大運河を見下ろす広間の3方を囲う大壁画のようなスーパーフラット。
「村上先生、よかったですね、売れましたね。」
嬉しくて誇らしかったです。
念の為、職員にも「村上作品を見に日本から来ました」と言っておきました。
そういう声って大事だから。
追記)常設ではありません。

グラッシ館(リノベーションは安藤忠雄です)
後へと続く日本の美術家たちに、とてつもなく大きな道筋をつけてくれた人。
私の中での村上隆は、偉大なる功労者です。
たとえどんなにご自分をネット炎上させようとしても。。。。。。

小ネタ。

村上隆と共に歩んできたカイカイキキのメンバーであるMr.の作品も展示されていました!
お見逃しなく。
posted by 皮膚科芦屋柿本クリニック at 18:53|
医療以外のつぶやき