竹村京 「E.K.のために」ーーーーーーーー

優雅な夫人が座ってこちらを見ています。
足元には犬が寝そべっているようです。

よく見ると写真の上に薄い布がかけられて、そこに刺繍が施されています。
女性の顔は、表情を抑えた仮面のように

犬はセッターのような色目に

花は豪華で繊細に

刺繍、という手芸をアートの現場に持ち込むのは大変難しい作業です。
近年、令和になって日本の金工や木工の技術がアートの現場でも再評価され
工芸を超えて美術品の一角を確保するようになってきました。
その多くは超絶技巧を評価されているようです。
しかしこの作家は、超絶的な刺繍の技で魅せているわけでもないのに
難しい壁を軽く飛び越えているように見えます。
品格がありスケールが大きくユーモアも軽やかに滲み
モチーフの選択がよく色目の抑え方も効き
好きです。
他の作品も見てみましょう。
作品名「入ってもよろしいですか」

カーテンで仕切られた部屋の中に入れていただくと
家族がいて

生活があります。

あれれ

顔がお面になっている。顔の部分が切り外され、両側に紐がついています。

さては、
好きな仮面をつけて、この世界に参加してよ
ということでしょうか。
もちろん作品は触れませんので、心理上の誘(いざな)いです。
反対の壁は家

薄い布に

シャツ

額に入った花と花瓶の絵

小物たち

椅子

壁の映像にお蚕さんが映る。
わかってきた。
美しい日本の絹の刺繍糸で、失ったものを再現する。
壊れた物を修復する。
それがこの作家のしたいことなんだ。
でも、この執拗さは何?
刺繍の技巧をわざと稚拙に置いたままにしているのも
技術の修練を待てないほど拙速に表現したいものがあるようにも感じ取れ
暑い。でも素材がクールなので、苦しくない。

もしかして、美しい絹糸で修復され、くるまれたいのは作家自身なのかも。
そしてここに惹かれる者も、同じ思いがあるのかも。
奥様、そういうことでよろしいでしょうか。

ひとまず今日はここまで。
ホームスイートホーム展、他にも素晴らしい作品がありましたが端折って
次は上の階の常設展について書けたら書きます。