森村泰昌「Blinded by the Light」1991年

同じ関西人として、この人を外すことはできません。
大阪市天王寺区に素敵なご自宅を構えて(メディアで公開)
活動しておられる森村泰昌。
上品な大阪ことば、鼻梁の高い端正な顔、静かな佇まいの森村は
作品の中では、自在に他者に変貌します。

この作品はバブル華やかな1991年のもの。
中央で
ブランドバックを手にいっぱい持って前へ進む人の目には
ルイヴィトンマークのリボンが目隠しのようにずれ落ち
本当に前が見えているのやら。
そう、この女性に扮しているのが森村本人です。
彼は何にでも扮装し、そのポートレートを発表し続ける作家です。
その後ろの手榴弾で目隠しされている軍人も森村

その後ろの筆が目に刺さっている画家も森村です。

先導する女性はカワイイ薔薇の目隠しを装着し、豪華な毛皮に身を包みます

その前のめりな欲望は、獣のよう、という比喩でしょうか
足元に散らばるお札の肖像も森村です。

この作品は、1568年に描かれた
「盲人の寓話(The Blind Leading the Blind)」という作品のパロディーでもあります。
聖書が下敷きになった巨匠ピーテル・ブリューゲルの名画です。
森村はこの絵の題にブリューゲルの題名をひねって
「Blinded by the Light」と名付けています。
Blinded by the Lightは、1973年にブルース・スプリングスティーンが発表した
日本では「光で目もくらみ」という楽曲のタイトルでもあります。
1991年当時の狂騒が、この絵によって鋭く浮かび上がってきます。
このように名画の中の人物に扮してセルフポートレートを
作品にして活動してきた森村泰昌。
時代が追いついたようで、回顧展、メディア取材も増えました。
しかし、ただのパロディーでなく、
時代を深く洞察し、細部にこだわっている点や
チープにならないような徹底したこだわり
(メイクにしても、衣装にしても)が
私は好きで、
森村が美術館にあると嬉しくなります。
どうか末長く関西発の美術家として活動して欲しいと願っています。